ピンクのスノボウェア編

これは、世界を股にかけるカリスマ・ギャルソンこと筆者のブッチギリな妄想ストーリー。このカテゴリーの縛りは(あ)思いつくまま創作&執筆。(い)読み返さない。(う)社会的な問題をお題とする、となっている。このBar「カリスマ」とは夜に現れ、困っている人を助ける(?)オアシス。そんな蜃気楼に迷い込んだお客さんの体験談となっている。











と言ったわけで、思い当たり創作系〜Bar「カリスマ」⑤、いざ開幕。。。



















「きゃゃぁぁぁぁぁ!!」
滑り始める直前にピンクの衣に身を包んだ私は気合を入れた。
昨日、無念にも散った実の兄の無念は私が晴らす。
MIKI−Tとかスグリンとかブチャイクどもよりも、私の方が才能がある。
日本の金メダル第一号は私のもの。そう私は気を入れなおした。
大好きなピンクの衣に身を包んで。
そう、さっきの滑りは決勝へのホンノ序曲。
2本目こそMEROフリップを決めてやる・・・。
私は、胸に高い志を持って滑り始めた。





















最初のバンクが近づいてきた。
いざ、MEROフリップへのテイクオフ!!
スターダムへのテイクオフ!!
私は重力に逆らい、宙を舞った・・・。
























き、決まった・・・。
私の目の前は明るい未来が開いていた。
得意のラップのCDデビュー。
ブログへの有料広告。
半生記本の印税。
挙句の果てにはモデルデビューし、ヘアヌード写真を売りさばく・・・。
その威力があるMEROフリップ。
唯のマックツイストの足を伸ばした技。
ぶっちゃけマックができれば誰もができる技。
でもそんなところは先駆者メリット。
名前をつけたものの勝ち。
私のMEROフリップ・・・。






















少し気を抜いていたのであろうか。
バンクの底辺がボコボコだった。
私は明るい未来に気を取られ、ひざに力が入りすぎていたのであろう。
バンク底辺に足を取られ、しりもちをついた。
スピードが落ち、次のエアー行くには遅くなりすぎていた。
私は、突然、「腰を強打した振り」をして、そのまま天を見上げて滑り落ちていった。























その日の夜。
まだ未成年の私は、コーラのペットボトルにウィスキーを入れ、選手村をふらついた。
もう、破れかぶれだった。
ちょっとした油断が全てだった。
私には守るものもない。
破るものもない。
破るものは日本を出るとき、行きづりの酔っ払いに捧げてきたからだ。
こうなったらイタ公でもくわえ込んでやる。



















そう思い、街をぶらつくも、「アンタ誰?」「何、このブチャイク」くらいに言われた。
なので選手村でフックしようと思ったが、皆試合前のピリピリ感を出している。
試合が終わったのはチャラチャラしたスポーツ選手でしかない。
彼らは目が肥えているのであろうか。
私に見向きもしない。
やさぐれた私は、選手村で唯一未成年にアルコールを売ってくれるコンビニを目指した。
と、そこへ。

























「こ〜としも何かしたくて〜毎日二人はソワソワしてる〜♪」と聞きなれた音楽が流れこんできた。
この曲は、そう、私が抱かれたい男NO.1のクレバさんの曲だ。
冬季オリンピックなのに夏の歌・・・。
と私はイケテナイ突込みを入れながら、音楽の方へと足を運んだ。


















突然、選手村の中にイタリアン・バーと思わせるバーが現れた。
店名はBar「カリスマ」。
この店内からクレバさんの声が聞こえてくる。
クレバさんの音楽が日本人にしか分からないためか、店内には誰もいなかった。
私はフラフラと店内に入っていった。
「いらっしゃいませ」黒いズボンに白いシャツ。
腰の前に黒いエプロンをつけた、めちゃくちゃイケ面の店員が現れた。
彼は身長175cm、体重63kg、軽いウェーブがかかったヘアスタイルと鋭い目つき。
股下1メートルはあるであろう長い脚と高い鼻。鼻が大きい人はアソコも・・・。
そう思った私は、今夜のターゲットを定めた。




















「それは無理です、お客様」
と突然、カリスマっぽいトーンで店員は私に話しかけた。「え・・・?」
「いえ、こちらの話でございます。さぁ、コチラへどうぞ」
とカウンターの椅子を促された。
「無理って何が・・・?」
「当店は選手村にいらっしゃる日本人の選手を少しでも癒すことができれば、と考えて設営したバーでございます」と店員は言い出した。
だめだ、彼は私の質問を聞いていない・・・。

















「まぁ聞くほど価値がある質問とは思えませんしね」
「えっ・・・?」
「いえいえ。さぁ、お掛けください。ところで、本日はお疲れ様でした」
「え、えぇ」
「腰の具合はいかがですか?」
「それ、嫌味?」
「「いえ、滅相もございません。腰をあれだけ強打しながらも、最後まで滑り降りるお客様のあの姿に私は感動しました。もちろん、日本で見られていたお客様のファンもそうかもしれません」
「そうかな・・・?」
「ええ、間違いありません!・・・さっ、こちらをどうぞ」
とこのイケ面の店員さんはいい香りのする飲み物を差し出した。
「あ、でも私・・・」
「未成年なんですよね?わかっています。アルコールは入っていません」
「あ、じゃぁ」
と私は出された飲み物に口を付けた。























「オウェッ」
「大丈夫ですか?」
突然イケ面店員がえずいたのだ。





















「大変失礼しました。あまりのブサイクっぷりに・・・」
「えっ??」
「いえ、こちらの話です。大変失礼しました。・・・ところでお味はいかがですか?」
「これって・・・?」
「あぁ。大変失礼しました。東南アジアの国民的スポーツドリンクをホットで入れまして、その後イチゴ味をつけたものです。名づけてMIROイチゴ味、でございます」
「・・・おいしい」
「ありがとうございます」
とこのイケ面は暖かい微笑みを私に投げかけた。
思わずその天使のような笑顔に包まれ、私は誰にも聞けなかったことを口にした。
























「ねぇ、店員さん。私の態度どう思いました?」
「態度、でございますか?」
「えぇ。私、2回目のエアーを最初から失敗して、腰を強く打っちゃって・・・・。そのままの姿で滑り降りたでしょ?あれでコースがさらにボコボコになっちゃったと思うの」
「でもお客様は、滑れない状況になったとしても、ゴールしたかった。そういうことですよね?」
「うん・・・」
「いいですか、お客様。私が思うに、なのですが」
「うん」
「このような世界的な大会は参加することに意義があると思うのです。そして全力を出し切り、スポーツマン・スポーツウーマンシップを最大発揮することに意義があると思います。確かにお客様はコースのコンディションを壊したかもしれない。後の選手に迷惑をかけたかもしれない。が、しかし」














「しかし?」
「お客様は最後まで頑張ってゴールしたじゃないですか。それで良いじゃないですか!!それがこういった世界状況の中でスポーツを行う意義だと、私は思っています」
「・・・ありがとう!何か、ホッとした!!」
「そのドリンクのように、ですか?」
「え・・・?」
私は自分の手元のカップを見た。
飲み物の姿は消えていた。
あまりの美味しさ、そして彼の暖かいトークに魅了され、いつの間にか飲み干してしまったらしい。
















「あ・・・。いつの間にか飲み干しちゃったみたい」
と私は自分が最も可愛いと思っているMEROスマイルを彼に向かってした。
ハッキリ言ってこのMEROスマイル、金メダルをとって写真集を出すまでは封印するくらいプレミアムで可愛いスマイルだ。
彼のハートは私に釘付け。
今夜は持ち帰られちゃおうかなぁ、と思っていた瞬間。





















「オウェッ」
と彼はえずいた。
「めっちゃ、ブサイク・・・」
「えっ?」
「いえ、こちらの話でございます。さ、お客様。お客様の戦いは一度終わったかもしれません。が、しかし。日本のチームの戦いは始まったばかりです。明日からは皆の応援で早いのでは?」
「うん、腰の精密検査もあるし・・・」
「そうですね。それでは本日はこの辺でお帰りになったほうが?」
「そうかも。うん、ありがとう!明日もまた来るね!」
「くんじゃねぇよ、このブスっ」
「えっ?」
「いえ、コチラの話でございます。さ、お客様」
と彼はカウンターからこちらに回りこみ、私が羽織っていたお気に入りのピンクのスノボウェアを私の肩にかけてくれた。






















「ありがとう」
と私はドサクサに紛れてこのイケ面の手に触れてみた。
「触ってんじゃねぇよ、このブス」
「えっ?」
「こちらの話でございます。さ、どうぞ」
とイケ面は私をドアまでエスコートしてくれた。
「あ、御代は?」
「いえ、ここは選手村。御代は全て国民が血汗流して働いて捻出した税金から賄っております」
「あ、そうなの?いいのかな・・・?」
「えぇ!もちろんです!貴方は私たちに夢を与えてくれたじゃないですか!」
「そうかな?」
「えぇ。さ、おやすみなさい」
とイケ面は私をそっとドアの外まで見送ってくれた。
私は暖かい気分になり、ホテルへ帰ろうとした。
歩き出そうとした瞬間、私の後ろから世にも奇妙な声が聞こえた。






















「ざっけんな、あのブス!しねってんだ!」
私は振り返った。
が、しかし。
先ほどまでその場所にあったBar「カリスマ」の姿はなく、先ほどのイケ面の声だけが聞こえてきた。


























「ざっけんな、兄弟そろってよ!神聖な大会の滑り出しの前にギャァギャァ騒ぎやがってよ。実力もねぇくせによ!口だけギャァギャァ言いやがるし、ブス子の方はラップまで歌い始めるしよ。日本の恥さらしがよ。生きて日本に帰ってくんじゃねぇぞ、コラっ!何が『次回の大会までには実力を高めて』だと?毎回毎回が勝負だろうがっ!!『次回、次回』だとか言ってんじゃねぇよ、クソが!しかも兄は滑り終わってギャァギャァ騒ぐしよ、ブスは滑り終わることもできずにコースコンディションを乱すしよ!しかも、『腰を強打』とかいう仮病使うしよ!マジっざっけんな。」






















「いけない・・・。私ったら、あまりの罪悪感のために、さっきのイケ面がそんなこと言ってたらどうしよう、なんて思っちゃった。」
と私は自己反省した。
でも、さっきのバーはどこにいったんだろう・・・?





















Bar「カリスマ」。
それは夜の選手村に現れ、困っている人を助ける(?)トリノという名の雪国のオアシス。
そんな蜃気楼がまた現れることを信じて、


一時閉幕。。。