選手村編

これは、世界を股にかけるカリスマ・料理家こと筆者のブッチギリな妄想ストーリー。このカテゴリーの縛りは(あ)思いつくまま創作&執筆。(い)読み返さない。(う)社会的な問題をお題とする、となっている。このBar「カリスマ」とは夜に現れ、困っている人を助ける(?)オアシス。そんな蜃気楼に迷い込んだお客さんの体験談となっている。







と言ったわけで、思い当たり創作系〜Bar「カリスマ」④、いざ開幕。。。























「おりゃぁぁぁぁぁ!!」
俺は気合を入れた。
いざ、滑り出し、華麗なエアーを決めてやるぜ。
見てろよ、パンピーども。
日の丸を背に、金メダル取ってやるぜ!!・・・。
と思ったがトリノの観客は乗っていなかった。
俺はノリノリの観客の中でしか滑らないことにしている。
だから俺は観客の手拍子を促した。
チラホラと手拍子が始まる。
イタ公はリズム感が悪い。
「けっ、胸クソ悪いぜ・・・」
そう、思いながら俺は滑り始めた・・・。

















エアーが次々と決まる。
これ以上ない出来栄え。
かつてない興奮。
俺の中では120%の演技が終わった。
俺はヘッドフォンを外し、雄たけびを上げた。
金メダルは間違いない。
俺は明日から国民的スーパーヒーローだ。
カリスマ・スノーボーダーだ。
妹におされ気味だったが、これからは俺の時代だ。
講演・レコード・タレント業・ジャンクスポーツの出演料・・・。
行く末は芸能人の姉ちゃんにスノボレッスンしてそのままゴールイン。
俺の人生サクセス。
俺の生涯は安泰。
そう思っていた瞬間・・・。
ひくひくの点数が俺の目に叩きつけられた。
俺の目と股間がヒクヒクと動き、俺はその場で崩れ落ちた・・・。





















その日の夜。
二十歳を過ぎた俺は、選手村をぶらついていた。
片手には今回のオリンピックモデルのワイン。
周囲の音を遮断するかのようにヘッドフォンを耳にしながら。
イタリア・ワインは俺を酔わす。
俺の足取りはフラフラしていた。
傍目には俺が音楽を聴きながら、最悪のリズム感で歩いているように見えるかもしれない。
それでも良いのだ。
日本に帰ったら俺に対するブーイング、バッシングなどを考えたら、俺は飲まずにはいられなかった。
と、そこへ。





















「こ〜としも何かしたくて〜毎日二人はソワソワしてる〜♪」
と聞きなれた音楽がヘッドフォンの外から流れこんできた。
そう、俺がリスペクトして止まない天才ラッパーことクレバさんの曲だ。
イッサイガッサイ俺の不安を流して欲しいよ・・・。
と俺は音楽の方へと足を運んだ。


















突然、選手村の中にイタリアン・バーと思わせるバーが現れた。
店名はBar「カリスマ」。
この店内からクレバさんのリリックが聞こえてくる。
クレバさんの音楽が日本人にしか分からないためか、店内には誰もいなかった。
俺はフラフラと店内に入っていった。



















「いらっしゃいませ」
黒いズボンに白いシャツ。腰の前に黒いエプロンをつけた、めちゃくちゃイケ面のギャルソンが現れた。
彼は身長175cm、体重63kg、軽いウェーブがかかったヘアスタイルと鋭い目つき。
股下1メートルはあるであろう長い脚と軽くお茶目に主張する後頭部がチャーミングだ。






















「あ、どうも・・・。って日本語OKなんすか?」
「えぇ。当店は選手村にいらっしゃる日本人の選手を少しでも癒すことができれば、と考えて設営したバーでございます」
「へぇ。そんなこと日本人の誰も言ってなかったけど・・・」
「まぁそうかもしれませんね。皆様の試合はこれからですし。ところで、本日はお疲れ様でした」
「それ、嫌味?」
「いえ、滅相もございません。こういった大会は参加することに意義がありますし。私はお客様の繰り広げるエアーに目を奪われてしまいました」
「あ、ありがとう」



























普段素直になれない俺は、思わずこのギャルソンの優しさに触れ、ちょっぴり嬉しくなった。
「まぁコチラにどうぞ」
と俺はカウンターの席を勧められた。
「ありがとう」
と俺はバーに腰掛けた。
すると。




















ウィーンウィーン♪
突然カウンターのイスが動き始め、背もたれが現れ、クッションがふかふかになった。
俺はマッサージ椅子に座っているような快感を覚えた。
「こ、これは・・・?」
「お客様の疲れた体と心を癒すよう、国民の血肉をそぎ取った税金から賄った椅子となっています」
「へ、へぇ。でも気持ちがいいねぇ」
「ありがとうございます。それでは」
とこのイケ面が指を鳴らすと椅子が動き始め、俺はマッサージされていく。
「う〜ん、気持ちいいねぇ」
「お飲み物はいかがいたしましょう?」
「生ビールある?」
「もちろん、ございます。が、お客様。もしよろしければ、こちらなんていかがでしょう?」





















とこのイケ面は俺のオーダーに逆らい、コ汚い茶色のコーヒー牛乳みたいな飲み物を差し出しやがった。

















「な、何だよこれ」
と俺はこのギャルソンに殴りかかりそうになったが、グラスの中を凝視した。
すると。
「ま、まさか・・・。これは・・・。」
「ええ。さ、どうぞ」
とやさしい微笑みを俺に分けながら、彼は俺の大好物を差し出した。






















「うーん、やっぱりMIROだよね」
「えぇ。お客様にはMIROが良いのでは、と。しかしながら妹様が改名されたこともあって、MIROを買うことも、オーダーすることもやめているのでは、と。つまらない私の勘ぐりかもしれませんが・・・」
「いや、うめぇよ。MIROはマジでうめぇよ。マジ、サンキュだよ。リスペク‘アン’ピースだぜ」




















俺はありったけのボキャブラリーを使用して、このカリスマっぽいギャルソンに感謝した。
「ところでさぁ」
「はい、何でございましょうか?」
「正直、俺悔しいんだよね。今日は俺の中で最高のすべりだったんだけどさ。・・・どう思った?」
「先ほども申し上げましたが」
とこのカリスマっぽいギャルソンは話し始めた。
「お客様の本日のすべりは最高でございました。私が言うのも何ですが、生涯イチの滑りだったかもしれません。だからこそメダルを逃したときの悔しさは人一倍だったかと思います」
「分かってんじゃン」
「が、しかし」
「何?」
「お客様は、国民からメダルの期待をされてこちらに来られた存在。となりますと、帰国後、多少の嫌味を言われるかもしれません」
「・・・そうなんだよ。それが俺、嫌でさぁ。マジ極ブルーだよ」
「ですが、お客様。最高のすべりができたことを自負していらっしゃるのであれば、その点を国民にアピールすれば良いと思います」
「だよな?最高の滑りをしたからこそ、悔しかったわけだしよ」
「ええ。自分のベストを尽くして、メダルが取れなかった・・・。それだけ世界のレベルは高いことをお伝えすれば良いかと思います。ひねくれた方は、『ベストを尽くして負けた=実力不足』と思われるかもしれません。が、しかし。このような大会でベストを尽くせること自体がすばらしいのではないでしょうか?」























俺はこの言葉を聴いて、無口になってしまった。
俺が言ったら言い訳になる。
だから言えない、「ベストを尽くしたから満足」という言葉。
だからこそ、俺はこの言葉に心を温められた。




















「ありがとよ!」
と俺はMIROを飲み干し、席を立った。
これ以上ここにいたら、涙が出てしまうからだ。
明日は妹の出番だ。
心のそこから応援したい。
そう思って俺は席を立った。






















ごちそうさん。いくらだい?」
「いえ、ここは選手村。御代は全て国民の税金から賄っております」
「あ、そうなの?俺、国民の期待を裏切ったのに?」
「いえ、お客様。お客様は私たちに夢をくれました。そのための税金ならば、惜しくはないのではないでしょうか?」
「そ、そうかな・・・」
「えぇ!もちろん、一部のひねくれた国民は罵声を浴びせるかも知れませんが。それは先ほどの話です」
「そ、そうだよな!!じゃぁ・・・ありがとよ!」
俺は感動し、勇気付けられ、このカリスマらしきギャルソンに挨拶をして、店を出た。



















また音楽を聴くためにヘッドフォンを手にしようとした矢先。
ナイ・・・。
どうやら俺はヘッドフォンを先ほどのバーに忘れてきたらしい。
俺は先ほどのバーに戻るために振り返った。
が、しかし。
先ほどまでその場所にあったBar「カリスマ」の姿はなかった。













Bar「カリスマ」。
それは夜の選手村に現れ、困っている人を助ける(?)トリノという名の雪国のオアシス。
そんな蜃気楼がまた現れることを信じて、


一時閉幕。。。