あの日の彼女のパンチライン

最近暑い!世界を股にかけるカリスマ・VIPこと筆者は、エコロジーという言葉を武器に、自宅のクーラーをつけないという趣向を持つため、夜は特に暑い!と言ったわけで、暑さを忘れるべく、世界を股にかけるマスター・オブ・ライムこと筆者は音楽界へと逃避する。





そう、筆者は最近ジャパニーズヒップホップのレベルがガンガン上がっていることに対してもっぱら関心している。最近ではコカコーラのCMソングを歌っているBennie Kという女性二人組のグループ(一発屋に違いないと予想)が筆者の中ではプチ熱い。そしてジブ兄ことジブラの最近の曲はマジ極熱である。先日はイケテナイ野球チーム「読○巨人軍」が神宮球場でナイターを行った際、この極熱曲を5万人、いや視聴者を含めると100万人以上にその熱さっぷりを見せつけたのだ!そしてケツメイシもまた新しいアルバムを出したり、など非常に熱い。





ジブ兄とタッグを組んでいたカリスマ・ライマーな筆者としては正直ここまで日本のヒップホップが高まってくるとは思いもしなかった。




そんな中、どうでも良いラッパーこと、元キックザカンクリューのKREVAが新しい曲(イッサイガッサイ)を出した。これがまたメチャクチャどうでもいい曲なのだが、そのビデオクリップが極熱なのである。そして筆者の創作意欲を駆り立てている。



読者はKREVAって誰?とかそのビデオクリップ見たこと無い、と思われるであろう。そこで、今回は筆者がそのビデオクリップをネタに、愛らしいストーリーを創作してみた。ハッキリ言っておくが、今回はラバブル・センチメンタル・ストーリーであるため、笑いもなければシモネタもナイ。でも良いのだ。そんな筆者の一面も好きだから(ハート)と女性読者が呟くに違いないからさ。




それでは始めよう。「あの日の彼女のパンチライン改めスーツ姿」。いざ開幕。。。














「年の差を感じたらお別れね」
付き合い始める前に彼女は僕に言った。
「・・・うん」
僕はそう答えるしかなかった。だってそうじゃないか。大好きな彼女と付き合う寸前に、何を言われたってそう言うしかないだろう?






夏休みが始まる日の放課後。僕は1年の頃から大好きだった彼女を屋上に呼び出した。僕の学校は卒業すれば付属の大学に進学できる。約9割の生徒が進学組のこの学校の夏休みは僕たち高校3年生にとってパラダイスだ。教室の掃除が終わり夏休みのスタートを噛み締めるかのごとく駆け出す奴ら。屋上からは秋の選抜野球に向けた野球部が校庭で特訓しているのが見える。









「待った?」
突然声をかけられ、ビックリする僕。僕はしどろもどろながらも胸に秘めたる想いを伝え、最終的にはOKを貰った。
喜び、駆け出しそうになる僕のはやる気持ちを抑え、次の日曜日に一緒に映画を見に行くことを約束した。








日曜日、着る服を散々迷った僕は、15分も遅れて映画館の前に着いた。
「遅いぞ!」
学校にいるときのように彼女は僕を叱った。着る服を迷ったことを告げると、彼女は嬉しそうに微笑みながら、
「いつでも普段着でいようよ」
彼女は言った。そう、確かに彼女は学校で見るときよりもラフでカジュアルだ。ジーパンにポロシャツ。決してお洒落とは言えないかもしれない。でも普段の彼女を見ることが出来る。そして普段の僕を見てもらうことが出来る。





僕たちは映画を見た。その後、彼女は僕を1人暮らしのアパートに誘った。あまり綺麗とは言えない部屋の中。彼女は僕に麦茶を出してくれた。冷えている麦茶が咽を潤す。
「あまり外出したくないんだ・・・」
彼女は切なそうに言う。
「・・・分かった」
事情が事情なだけに僕もそう言うしかなかった。
「何が食べたい?」
「何でもいいよ」
彼女は冷蔵庫にあるもので手際よく手料理を作ってくれた。
「ねぇ、何泊か泊まっていくことって出来る?」
夕食後、彼女は突然僕にそう聞いてきた。
「分からないけどやってみる」
僕は自信なさ気にそう言った。その日は僕は家に帰ることにした。








月曜日。1週間分の着替えを持って僕は彼女の家のチャイムを鳴らす。彼女が僕を出迎える。1週間限りの同棲生活。僕にとって初めての同棲。2人はこの先1週間の予定を立てる。僕も彼女も車の運転ができない。出歩くとしたら近場しかない。でも人に見られてしまうかもしれない。結局夜遅くの行動になってしまう。
夕食後。今日は帰らなくてもいい。一緒に寝ることになる。僕にとっては初めての経験だ。彼女は優しくリードしてくれる。




火曜日。ただただダラダラ過ごしている。二人でいつまでもベッドでまどろんでいる。誰かと一緒に過ごすのがこんなに楽しいとは。




水曜日。冷蔵庫が空になったから買い物に出かける。誰かに見られるんじゃないかとドキドキしながらの買い物。僕も彼女もサングラスをかけながら買い物をしている。




木曜日。夜遅くの井の頭公園での散歩。外で始めて手をつないだ。柔らかい彼女の小さい手。




金曜日。夜になってから学校のプールに忍び込む。僕たちは全裸でプールで泳ぐ。二人だけの秘密。





土曜日。明日で最後。二人でいつまでもベッドで時を過ごす。





日曜日。最後の日。明日帰らなければいけない、というタイムリミットを感じる僕たち。
「まるでシンデレラだね」
彼女が呟く。





月曜日。夕方僕は家に帰る。
その後も電話では何度か連絡を取る。でも、実際に逢うことはできなかった。互いに夏休みの宿題に追われていたからだ。










夏休みが終わる1週間前。僕は家族に「夏休みの宿題を片付ける合宿」という嘘をつき、1週間外泊の許可を貰う。たくさんの勉強道具を片手に、彼女の家のベルを鳴らす。また二人だけの1週間が始まる。この日を楽しみにしていた二人はそれぞれの宿題を先に終わらせている。二人だけのパラダイス。二人だけの楽園。1週間限りの僕たちの夏休みの第2章が始まる。




1週間最後の日の朝が空ける。明日からは2学期の始まりだ。彼女が聞いてくる。
「最初に言ったこと覚えてる?」
「・・・うん」
「明日学校で逢って」
「うん」
「年の差を感じたらお別れだからね」
「・・・うん」
切なそうに呟く僕。でも彼女の方が辛そうだ。
「私・・・。」
「うん?」
「別れる事になってもこの夏休みのことは忘れない」
「・・・僕も」
二人は時間を惜しむように抱き合った。







僕は家に帰った。明日はいよいよ2学期の始まり。





8時45分。クラスに着く。何か大人になったアイツ。日焼けしているアイツ。ファッションが一気に変わったアイツ・・・。でも僕ほど心境に変化があった奴はいないだろう。



「なぁ、姉さんの夏休みってどーだったんかな?」
後ろの席から悪友が聞いてくる。姉さんとはこのクラスの担任だ。
「・・・知るかよ」
「大学卒業して5-6年だろ?きっとヤリヤリのハメハメだったんじゃねぇ?」
「お前、うっせーぞ」
「何だよ、おめぇノリ悪いなぁ」




廊下にハイヒールの音が響く。ドアが開き、先生が現れる。1学期のように朝礼係が声を出す。「きりーつ。礼!着席!」
先生と目が合った。ピシッとしたスーツ姿の彼女と制服を着ている僕。彼女の目は不安で覆われている。









「大丈夫」




僕は力強く、そして優しく微笑みながらそっと口を動かす。
彼女もそっと微笑む。安心そうな面持ちで。





そして彼女はいつも通り出席を取る。ハリのあるいつもの声で・・・。





完。