人事採用担当者編

これは、世界を股にかけるカリスマ・バーテンダーこと筆者のブッチギリな妄想ストーリー。このカテゴリーを説明すると、
名前:思い当たり創作系。カリスマが好きなカテゴリーを足して2で割ってみる新(手抜き)カテゴリー。
縛り:(あ)思いつくまま創作&執筆。(い)読み返さない。(う)社会的な問題をお題とする。






と言ったわけで、思い当たり創作系〜Bar「カリスマ」①、いざ開幕。。。









私はとある老舗電子部品メーカーの採用担当者。
現在、頭を抱え、薄くなった髪の毛の本数を数えながら、悩んでいる。







そう、どの企業の採用担当者も頭を抱えているように、新卒学生の内定蹴りが多いのだ。
私の会社は、特にヒドク、春に入社予定の学生のうち、10数人に辞退されてしまった。
明日は会社の役員に報告し、今回の採用活動の反省をしなければいけない。
気が重い・・・。
必然と帰宅時間が延ばし気味となり、私は1人銀座をうろついていた。








そこへ。











昨夜までは見なかった「いい感じのバー」が現れた。
終電まで、あと30分。
私の足は自然とそのバーへと向かった。










まるで荒野のカウボーイやゴロツキが溜まっていそうなバーの入り口。
入り口にはサボテン。外の壁には、水の樽が複数並び、馬がつながれている。
ドアの上には、牛と思われるガイコツが飾られており、ドアの横には賞金クビの指名手配の紙が書かれている。
入り口は、西部劇でよく見かけるトビラだ。そう、左右に一つずつ、「キーッ♪」となりそうな例の扉だ。












私は年甲斐もなく、ワクワクした。
「今夜の私はカウボーイだ」
そんな気持ちを胸に、左右のトビラに手をかけようとした。
そのとき。













「ウィーン」
とトビラが開いた。
横に。
そう、一見荒野にありがちなそのバーのトビラは自動ドアであった。












「オートメーションはここまできたか・・・」
私は驚きを誤魔化すために、思わず呟いた。












店の中からは常連と思わしき男達(カウボーイ姿)が私を睨む。
明らかにイチゲンさんは求められていない。
そんな中、私は一歩一歩とカウンターへと歩み始める。









テキーラをあおる者。
噛みタバコを口に含む者。
ビーフジャーキーをかじる者。
拳銃をいじる者。
股間を弄る者。










そんな奴らを尻目にカウンターへとついた私はマスターに
「JDをストレートで」
と頼む。











そんな風景を思い浮かべていた。











が、しかし。











店の中は閑古鳥であった。













「あのぉ、スミマセン」
私は思わず謝ってしまった。
すると。











「いらっしゃい」
とカウンターにマスターが現れた。
下から現れた。
スクッと立ち上がって現れた。
どうやら年甲斐もなくスノボでハシャギ、筋肉痛が激しいのか、ヒンズースクワットをしていたらしい。











「まだ大丈夫ですか?」
「えぇ。まぁどうぞ」
と一番端のカウンター席を勧められた。
私は広い店内を見回しながらも、勧められたとおりカウンター席の一番端に腰掛けた。
が、ちょっと脂まみれだったので隣の席に座った。
腰掛けたカウンター席が「プッ」と音を立てたので、座りなおした。
「プッ」と更に音がなった。
その瞬間、私は「見ず知らずのバーで腰掛けた瞬間に2連発放屁をした男」となってしまった。
「いや、違うよ」
と私はマスターに目を向けた。










「の、飲んできたところなんだ」
私は噛んでしまった。これでは2連発放屁野朗確定である。










「の、飲んできたところなんだ」
同じことを言ってしまった。声を裏返しながら。2連発放屁野朗決定の瞬間であった。












「そうでしたよね。もちろん、飲むだけでも構いませんし、お食事もご用意できますよ。何でも仰ってください」
「いや、終電が・・・」
「あと、30分ですね?分かっております」
「!?」











なぜ、このマスターは私の終電を把握しているのであろう?なぜ、彼は私が飲んできたことを知っているのであろうか?どことなく鋭い眼差しと端正な面持ち。温厚そうな話し方に隠されたこの男の人並みはずれた能力。











間違いない、この男、只者ではない。
私はトンデモナイところに飲みに来てしまったのかもしれない。












「いえ、私は観察力が人並みはずれているだけですよ」
とマスターは私に話しかけた。
「そうなんですか・・・」
「まぁこれでもドウゾ」
とマスターは私にホットウーロン茶を出してくれた。











冷たい夜に手渡される温かいウーロン茶。
飲みすぎた後に勧められる中国4000年の味。
違いの分かる男にしかワカラナイこの香り。
全てが完璧である。













1人ホッコリしていると、「ピピピ」とタイマーの音が鳴り、私は現実世界に呼び戻された。










「しばらくお待ち下さい」
とマスターはドンブリに手際よく醤油、よく分からない油らしきものを入れ、続いてずん胴からスープ、茹で上がった麺、チャーシューや卵、ほうれん草やネギ、ノリなどのトッピングを入れていく。
どうやら先ほどのタイマーは麺の茹で上げ3分を知らせるタイマーであったらしい。
そして仕上げには背脂を「チャチャチャ」と入れ始めた。
どうやらカウンターの端の席の脂は背脂らしい。











「お待ちどうさまでした」
とマスターはドンブリに入ったラーメンを私の目の前にそっと置いた。
美味そうである。
明らかに美味そうである。
飲んだ後にホッコリとウーロン茶を出し、その後にはコッテリのラーメン。
たぶん、間髪をいれずに冷たい水を出してくれるのであろう。
このマスターは出来る。出来るに違いない。
私はマスターに感謝の意を述べることにした。













「いえ、御礼はいりません。さ、さっ。麺が伸びる前に」
と割り箸を割ってくれた。
マスターに感謝の目線を送り、私は割り箸を手に目の前のラーメンを食そうとした。
そのとき。














「いただきまーす」
とマスターはオモムロにたべ始めた。
1人で。
背脂入りのラーメンを。
これ見よがしに。










「!?」
「あぁ、美味い。美味い」
とマスターは小気味の良い食べっぷりで麺をすすり、スープを口にする。
どうやらマスターが作っていたのは
「マスターのための夜食」
だったらしい。












「いえ、夕食ですよ」
といらないところを訂正された。













「何故このマスターは私の考えていることが分かるんだ?」
とウーロン茶を啜りながら思っていると、
「いえ、こういう商売をしていると、何となく顔で分かるんですよ」
とマスターは話し始めた。
「大変ですねぇ、内定蹴りですか。採用担当者の身になってもらいたいもんですねぇ」
とマスターはスープを余すことなく飲み干しながら話し始めた。











「そうなんだよ。それで明日社内で反省しなければいけないんだよ」
私はマスターの洞察力云々などを度外視し、話し始めた。
「それは大変ですねぇ。しかしポイントは『採用チームが反省すべき点』と『会社に反省させるべき点』を分けて話すことでしょうね。そうしなければ『採用チームの責任』とだけになり、翌年度の採用活動も失敗することになるでしょうねぇ」
「と言うと?」
「極端な例で申しますと」
とカリスマ的な話し方でマスターは話し始めた。












「採用活動を3月に始めたとしましょう。世間一般が10月に始めているのに。この場合は『採用チームが反省すべき点』となります。しかし、御社の新卒の初任給が10万だとしましょう。同業種の一般的な初任給が20万だというのに。この場合は『会社が反省すべき点』となります。チームが反省すべき点は反省し、謝罪し、改善する。会社に反省させるべき点については会社に改善を要求する。これをナシに幹部に詰められ、一方的に謝罪しても、何も改善されません。翌年度も同じことで採用担当者が謝罪することになるでしょう・・・。」
「確かに、その通りだ。私の会社は採用が上手くいかない場合は全て採用担当チームの責任にしてしまっている。それでは駄目なんだ・・・!」
「えぇ。そうですね。責任の追及はまず、誰がその責任を持っているのか?というところから始めないといけませんからね」
「確かに・・・」












「ピピピ」
またタイマーが鳴り始めた。
「さ、お客さん。そろそろお時間ですよ」
とマスターは、手際よくドンブリを洗いながら私に声をかけた。
気がつけば終電まであと10分。ここから駅までは徒歩5分。丁度良い頃合いだ。











「ありがとう、マスター。幾らだい?」
「ウーロン茶ですよね?御代なんていただきませんよ」
「それじゃぁ悪いよ。幾ら置いていけば良い?」
「じゃぁお客様の気持ちだけ」
とマスターはレジの横にある募金箱にそっと目線を移した。










「恵まれない供を支援する募金箱」
金釘流で書かれている。多分達筆なマスターの手書きであろう。
間違いない。
「子」が抜けている。
私は財布から1000円札を入れてみた。












「まいどどーも」
「また来るよ」
と私はマスターに声をかけ、Bar「カリスマ」を後にした。












あっ!
募金の時に財布から飛び出した南野陽子のレア物のテレホンカードを忘れてしまった。
私は命の次に大事なカードを取り返すため、振り返った。












がしかし。










先ほどまでその場所にあったBar「カリスマ」の姿はなかった。















Bar「カリスマ」。
それは夜の銀座に現れ、困っている人を助ける都会という名の砂漠のオアシス。
そんな蜃気楼がまた現れることを信じて、












一時閉幕。。。