素敵なカツラ編

これは、世界を股にかけるカリスマ・料理家こと筆者のブッチギリな妄想ストーリー。このカテゴリーの縛りは(あ)思いつくまま創作&執筆。(い)読み返さない。(う)社会的な問題をお題とする、となっている。このBar「カリスマ」とは夜の街に現れ、困っている人を助ける(?)、都会という名の砂漠のオアシス。そんな都会の蜃気楼に迷い込んだお客さんの体験談となっている。
本作は、現在サンディエゴへ仕事を求めて旅たち、日本食が食べたい!と騒いでいるに違いない筆者の取り巻きこと「トニー」と「その妻」へ送るトリビュートとなっている。





と言ったわけで、思い当たり創作系〜Bar「カリスマ」②、いざ開幕。。。







カツラの中が蒸れなくなり、丁度良い寒さしのぎと化した今日この頃。
建築物の設計図を描く事で生計を立てている私は、ちょっとした問題を起こし国家レベルの問題を引き起こしてしまった。












たかだか建築物の耐震強度を書き間違えただけなのに・・・。









現在、国会に呼ばれて様々な誘導尋問を受けたり、自宅に黒いお手紙を送られたりしている。
檻の中に入ることは間違いない。あとは、どれ位の期間、ぶち込まれるか、それだけが私の興味だ。











「死んじゃおっかな・・・」
ファンシーな言葉がクリスマスカードや年賀状に紛れ込んでいるのを読み、私はいっそのこと、自らの命を絶つことで、私が引き起こした罪を償おう思っていた。ヤブレカブレ感が否めない私は、1人銀座をふらつき、飲み屋をハシゴして回った。
がしかし。
「お前のせいで年を越せない人もいるんだぞ!」
などと言われ、酔いも覚めてしまった。









やるせない・・・。
その言葉を胸に、1人トボトボとカツラを深くかぶり、私は自分が設計した自宅に帰ろうとしていた。既に私の家には、妻や娘はいなくなっている。今回の件をキッカケに、妻は娘を連れ海外へ逃亡。数日後、離婚届と莫大な慰謝料が請求された。誰もいない家に帰り、誰もいないのに、「ただいま」と呟き、カツラを外す。そんな毎日だ。








と、そこへ。
















カコーン♪トクトクトク。カコーン♪
獅子落としの音が聞こえてくる。
銀座の街中に響く獅子落としの心地よいリズム。
私は自然と音のする方向へと足を向けた。


















目の前には大きな日本風の家屋が現れた。
「ほう、古くからある日本の家屋か・・・。耐震強度は良いんだろうなぁ」
と呟きながら私は家屋の持ち主の札を見た。
「Barカリスマ」
と入り口の札には書いてある。
「ここはBarなのか・・・?」
と私は疑問を抱いた。


















入り口脇の札を凝視しようと一歩前に進んだその瞬間。
ウィーン♪
という音と共に、日本家屋の門が開いた。
目の前は素敵な日本庭園。
松や井戸。そしてちょっと凍った池には鯉が泳いでいる。池の側には獅子落とし。
庭園にはさりげなく雪がほんのりと積もっており、それが良い感じの風景となっている。
「こ、ここは・・・?」
と私は庭園の中へと足を運んだ。











「不法侵入罪」
という言葉が頭をよぎったが、私はヤブレカブレでしかない。
どうせこの先20年は檻の中にいることになる。それが1年や2年増えたところで大差はない。













庭園の中を歩きながら、私は妻との思い出に浸った。
妻と初めて出会った日。
それは日本庭園でのお見合いだった。
私は彼女と出逢った瞬間に恋に落ちた。
彼女も私に恋に落ちたらしい。
2人は見つめあいながら、日本庭園を散歩した。














目の前にある庭園は、正にあのときの庭園のようであった。
と、そこへ。
鰹節の一番ダシの良い香りがしてきた。
「温かい料理を作っているのか」
と家庭料理に飢えている私は思ってしまった。
自然と足が玄関へと向いてしまう。















ノレンが目の前に現れた。
「Barカリスマ」と書かれたノレン。
まさか、ここはバーなのか?
私は半信半疑で日本家屋に相応しいトビラに手をかけた。










ウィーン♪
ここのトビラはタッチ式の自動ドアらしい。
外見はワビサビの世界。内装は近代化の世界。
この素晴らしいミスマッチに私の血肉が沸いた。












「いらっしゃいませ」
と白い料理服を着たイケメン男性が私に声をかけた。
「こ、ここはバーなんですか?」
「えぇ。まぁドウゾお入り下さい」
と私は中へと通された。















「奥の個室にいたします?それともカウンターで?」
すし屋のカウンターのようなカウンターには、所狭しと新鮮な魚介類が並んでいる。
さらには煮物などの大皿が乗っている。
そして大中小の日本酒と焼酎のボトル。
家庭の味に飢えていた私は迷うことなくカウンターを選択した。
「ではコチラに」
とマスターは私をカウンターの端の落ち着いた席へと誘導した。















「この店には何があるんだい?」
「一通り揃えております。基本的には『お任せ』となっております」
「そうか。じゃぁマスターのお任せで」
「かしこまりました。食事は済まされておりますね?」
「分かるかい?」
「えぇ。それにお酒の方もだいぶ飲まれてきたようで」
「何でも分かっているようだね・・・」
「まぁ、まずはコチラをドウゾ」
とマスターは私にオチョコを渡し、熱々の土瓶蒸しを注ぎ始めた。










フワリと香るカツオと昆布のハーモニー。追って具沢山の香りが私を包む。まるでオーケストラが奏でる心地よいシンフォニーのようにすさんだ心を癒してくれる。
私はそっと土瓶蒸しをすすった。
「・・・美味い」
「ありがとうございます」
「具材は?マツタケの時期ではないし・・・」










「えぇ。本日は私が選んだ食材を世界各地からお取り寄せいたしております。具体的には『アジアの秘境から取り寄せたニワトリ』、『英国から取り寄せた牛骨粉』、『米国から取り寄せた月齢20ヶ月以上の牛スジ』を使用いたしております」
「ほぉ。美味いもんだね」
「えぇ。個人的には今年こそこれらが日本の三大珍味として認定されること間違いナシかと予想しております」
「そうかぁ。最近忙しくてね・・・。テレビを見る時間がないんだ」
「それはそれは。よろしかったら具材も召し上がってください」
「おお。ありがとう」
と私は土瓶ごと受け取り、中の具材を頬張った。う、美味い・・・。















「しばしお待ち下さい・・・」
とマスターは、旬の食材をさばき始めた。どうやら手長海老に似た食材だ。
「マスター、それは?」
「天然物マッカチンの踊りのお造りでございます」
マッカチン?」
「えぇ。古くは米国に生息していた甲殻類なのですが、今では天然ものも珍しく、つい今朝方捕まえたものでございます。味わっていただくためにも、サビ抜きにしてもよろしいでしょうか?」
「あ、あぁ。頼むよ」
「どうぞ」
とマスターは天然マッカチンなるもののお造りを目の前に置いた。
「う、美味い・・・」
口の中で踊りだすマッカチン。海老よりも歯ごたえがしっかりしているのに、口に入れると溶けていく、不思議な食材だ。











「お口直しにどうぞ」
とマスターは私にお茶を出してくれた。
「マスターこれは?」
「蔵金茶と呼ばれております。」
「ゾウキン茶?」
「えぇ。通常の緑茶なのですが、入れ方に工夫を加えております。具体的には緑茶を一度入れ、布でフィルターし、コスことで旨みを凝縮する手法でございます。聞くところによりますと、全国でこのようなお茶の入れ方が流行っているとか」
「なるほど・・・」
と私はお茶をすすった。
「う、美味い・・・」
お茶の渋みと温かみに加え、なんともいえない苦味が加わっている。
このマスター、違いが分かる男に違いない。












「最後の一品となります。しばしお待ち下さい・・・」
とマスターは、さらなる食材をさばき始めた。
(このマスターは出来る。温冷温と出し、こちらの腹具合と懐具合を巧みに知っている)
と思っていた矢先。
「どうぞ」
とマスターは雑炊と漬物を出した。
「これは?」










「まずコチラは天然フグの皮と肝からダシを取った雑炊でございます。もちろん、フグの皮や肝を初めとしてその肉を余すことなく使用しております。そしてコチラは天然野菜のノウ・ヤック漬けでございます。ノウ・ヤックとは米国で開発された旨み成分のことで、コチラに天然野菜を1晩つけることで旨みが格段とアップすることになっております」
「ほ、ほう。それでは早速」
と酒びたりの私の胃の中に雑炊と漬物を流し込む。
「う、美味い・・・」
雑炊も漬物も旨み成分が効いているのであろう。ピリリと旨み成分が舌を魅了している。










「美味かったよ、マスター。ご馳走様」
「いえいえ。見事な食べっぷりを拝見させていただきました。・・・そのような小気味の良さで明日からの尋問を通り抜けてください」
「マスター・・・。私のことを知っていたのか?」
「えぇ。もちろん。が、私にとっては大事なお客様です。精魂込めて作らせて頂きました」
「・・・ありがとう。何か大事なものを思い出した気がするよ」
「そう仰っていただくと嬉しい限りです。明日からも辛いこともあるでしょうが頑張ってください」
「ああ。本当にありがとう。マスターのように、誠意を込めてキチンと受け答えをするよ。」
「はい。それが良いかと思います」














「いくらかね?」
「当店は御代はいただいておりません。お客様の食されている姿、そして誠意。それだけで充分でございます」
「それじゃぁ悪いよ」
「じゃぁお客様の気持ちだけ」
とマスターはレジの横にある募金箱にそっと目線を移した。














「恵まれ子供を支援する募金箱」
金釘流で書かれている。
「恵まれているのか、恵まれていないのか」ワカラナイ。
が私はあえて突っ込まず、財布から10000円札を出した。















「またのお待ちをお越しいたします」
「・・・あぁ」
と私はマスターに声をかけ、Bar「カリスマ」を後にした。











突っ込みたい。
一度といわず、二度もコボケされてしまった。
元来突っ込み派の私としてはマスターのコボケを突っ込まずにはいられなくなり、振り返った。
がしかし。
先ほどまでその場所にあったBar「カリスマ」の姿はなかった。




Bar「カリスマ」。
それは夜の銀座に現れ、困っている人を助ける(?)都会という名の砂漠のオアシス。
そんな蜃気楼がまた現れることを信じて、







一時閉幕。。。