愛の虐待編

これは、世界を股にかけるカリスマ・ギャルソンこと筆者のブッチギリな妄想ストーリー。このカテゴリーの縛りは(あ)思いつくまま創作&執筆。(い)読み返さない。(う)社会的な問題をお題とする、となっている。このBar「カリスマ」とは夜に現れ、困っている人を助ける(?)オアシス。そんな蜃気楼に迷い込んだお客さんの体験談となっている。と言ったわけで、Barカリスマ系愛の虐待編、いざ開幕。。。







「冗談ジャネェよ」俺は夜の銀座を千鳥足で歩き、毒づいた。
だってそうだろ?
今、世間はWBCとかいうアメリカの、アメリカのための、アメリカによる世界大会が行われている。
それが終わればすぐ開幕。
ちょっと盛り上がりかけた矢先に、サッカーのワールドカップがある。
だからよ、WBCに選ばれないようなプロ野球選手には注目が全く当たらない。
たとえそれがV9を達成した天下のジャイアン○であっても。
だからよ、俺にとっては単純なオープン戦なわけよ。
エースもいないオープン戦だしよ。
相手だって4番がいないしよ。
成績とか年俸に関係ねぇしよ。
気合はいるかっつの。
何つーの?
軽いウォームアップちゅうの?
軽く投げて、軽く打たれて、ハイそれまでよ、って感じよ。





なのに、何だ?
若くもねぇのに若大将とか呼ばれていい気になってるウチのおっさんは?
口を開けば「ジャイ○ンツ愛」?
意味がわかんねぇよ。
ぶっちゃけ、去年の監督の方がまだマシだよ。
東海大の先輩?
しらねーよ。
大体学年で言えば20年くらい差があるんだぜ?
それに、向こうは内野、俺ピッチャー。
大学が一緒だからって絡みがあるわけねーじゃんよ。
なのにオープン戦でムキになる若大将。
俺をベンチ裏に呼び出し、「愛の激情」だとか言う洗礼をかましやがった。
しかも2日連続で。
大体よ、お互いプロなんだし、暴力振って良いわけねぇジャネェか?
暴力系の監督、例えば星○前阪神監督とかだったら分かるけどよ。
あのリーマン監督ごときが暴力振るうとマスコミがギャアギャァ言うジャネェか?
なのにベンチ裏に呼び出されて、キックにボディーブローよ。
さすがの俺も、その日のマスコミインタビューではショボイことしか言えなかったぜ。
「監督にベンチ裏で何を言われたか?・・・気合を注入していただきました。何か愛の制裁を受けたか?・・・覚えていません」ってよ。
なんせ、万が一でも訴訟を起こした瞬間にドン・ナベツネから永久に抹殺されちまうしよ。
ハッキリ言って、俺、野球バカだしよ。
俺から野球取ったら何も残らねぇからよ。
最終的には、リーマン監督の「ジャイアンツ愛」っての?
意味分かんなくても巻かれるしかねぇわけよ。
大体よ、入団当初は同期の○佐貫ばっかに注目しやがってよ。
俺なんか日陰の存在よ。
実力変わらないのによ。
そんな木○貫の馬鹿が将棋に明け暮れて怪我しやがってよ。
で、俺に日の目が当たったわけよ。
ハッキリ言って迷惑だぜ?
突然だしよ。
これくらいなら、特技は「溶接」な真田ちゃんにでも回したほうがいいんじゃねぇの?





そんなことをグダグダ考えながら、俺は銀座を一人ふらついていた。
すると。




突然、銀座には似合わない、月明かりに覆われた超高級な洋風の建物が現れた。
入り口は洋風な門だ。
イバラとツタで覆われている。
ぶっちゃけ不気味だ。
吸血鬼とか住んでるに違いない。
東京ディ○ニーの国からホーンテッドマンションが移動されたに違いないような外観。
正直ビビっちまってる俺。
が、しかし。
俺はジャ○アンツの期待のストッパー。
ビビってからが勝負の男。
俺は勇気を振り絞り、洋館に足を向けた。






月明かりを頼りに足を進める俺。
青白い光に当たって、洋風の墓石が照らされている。
こ、怖い・・・。
が、この程度でビビッテいたら巨○軍のストッパーは務まらない。
勇気を絞り、俺は目の前にある池を目指し、足を進める。



ピチョピチョピチョ・・・。
池に目掛けてションベンを放つションベン小僧がいた。




ピチョピチョ・・・。ピチョ・・・。ピチョチョチョチョ・・・。ピチョ。
間違いない。
ションベン小僧は残尿でお悩み中だ。





「キーキーキーッ!バサバサっ」
突然の羽音と共に、コウモリが飛び立つ。
「うおっ!」
俺はビビッタ。
冷や汗が背中をつたう。
俺は、ビビリながらも、何事もなかったかのように洋館へと進む。




「ホーホーホー」
フクロウの音が聞こえる。
この風景にはピッタリの効果音だ。





「ホーホーホー・・・ホケキョ」
どうやらドモリ気味のウグイスらしい。





「1番・・・、センター・・・赤星・・・背番号・・・」
やたらめったら間延びするアナウンス。
どうやら甲子園のウグイス嬢らしい。
ウグイスついでに登場してきたに違いない。





恐怖とジョークが交差する中、俺はやっと洋館の入り口へとたどり着いた。
オードリーヘップバ○ンがイタリアで連れに手を突っ込ませたような口が待ち構えている。
うおっ。
思わずギョッとしてしまった。
手を入れろってか?
そういうことか?
が、俺はピッチャー。
商売道具は黄金の右手。
一生の友達も俺の右手。
そんなわけで素無視してみた。



ドアには、ありがちなライオンのドアノッカーがかかっていた。
金のライオンに見えて、金メッキだ。
結構ショボイ。
まぁ他人の家だ。
これ以上は不法侵入罪になってしまう。
それはまずい。
また、監督にベンチ裏でボコられちまう。



「帰るか」
ドアノッカーを触りたいお茶目な俺と理性あふれる俺の間でしばらく葛藤があったが、俺はドアに背を向けた。
その瞬間。



ギィィィ。
と重い扉が開いた音がした。
俺は思わず振りかぶった。


いや、振り返った。
どうやら俺は野球バカらしい。






「いらっしゃい・・・」
とそこには黒いズボンに白いシャツ。
腰の前に黒いエプロンをつけた、めちゃくちゃイケ面が現れた。
彼は身長175cm、体重63kg、軽いウェーブがかかったヘアスタイルと鋭い目つき。
外人とも日本人とも見えるその端正な顔立ち。
本当ならば巨人に来るはずがシアトルマリナーズに行ってしまった、JOJIMAを思わせるイケ面だ。
どことなく、窪塚洋○とかいうジャンキーを連想させなくもない。
そんなイケ面が俺に向かって話しかけていた。




「いらっしゃい?」
「えぇ。いらっしゃいませ。ようこそ、Barカリスマへ」
「え・・・?」
イケ面が軽快なステップを踏んだ。
俺が今まで立っていたコンクリートには「Barカリスマ」と書いてあった。
「こ、ここはバーなのか?」
「ええ。さぁ、どうぞ。お待ちしておりました」
「こ、ここはバーなのか?」
俺は同じ質問をしてしまった。
野球バカ。
俺の鼓膜の中でこだまするこの言葉。
生まれた頃から野球をしすぎたせいか、知識のチの字もない、俺の頭。
俺は自分で自分が嫌になった。




「さ、どうぞ中へ」
とJOJIMA似のカリスマは俺をそっと優しく中へと連れて行った。





きらびやかなシャンデリア。
まばゆいばかりの赤じゅうたん。
ふっかふかでマフっとするソファ。
パチパチと音を立てながら火を燃やしている暖炉。


マーバラスでゴージャスな部屋が俺を待ち受けていた。
「さ、コチラにおかけください」
と俺の上着をコート掛けに掛けながら囁くJOJIMA似のイケ面。
俺はフカフカのソファにマフっと座った。



「お飲み物は何にいたしましょう?」
「何があるんだい?」
「よろしければお勧めでいかがですか?」
「じゃぁそれで」
「ではどうぞ」
と圧倒的なテンポの良さで飲み物が出された。
どう考えてもこの店員。
俺にメニューを選ばせる気がないらしい。
それどころか、既にグラスに飲み物を注いでいたらしい。



「コニャックでございます」
「コニャック?」
「えぇ。口の中で転がしてからお飲みください」
「あぁ」
と俺は一気にグラスを空けた。


かっ!!
コニャックのせいなのか。
俺の胸は熱く燃え上がった。
「ぐはっ!」
「お客様・・・。口の中で転がした方が良いと思いますよ」
「そ、そうだな・・・。もう一杯。それとチェイサーもくれるか?」
「ええ。」
とカウンターからコニャックとチェイサーを俺に手渡した。
このタイミング。
どう考えても用意されていたとしか思えない。
明らかにオーダーさせるつもりはないらしい。



「ありがとう」
俺はもう一杯、あおった。
「お客様、いかがなされました?」
「いや、ちょっと仕事で嫌なことがあってな」
「そうでしたか・・・」
「何かさ、気分がモヤモヤしてよ」
「胸の中には熱い闘志があるのに、今イチ燃え切れていない、ということですか・・・」
「そ、そうなんだ!」
「お客様。私は常々、男たるもの、心に秘めた熱き思いを秘密にしておきながらも、どこかで外に出さなければならない、と考えております。」
「胸に秘めた・・・思い?」
「えぇ。男たるもの、胸に火を持っています。その胸の中にくすぶっている火。それに火をつけることが重要なのです」
「胸の焚き木に火をつけろ、って奴か」
「ええ。その通りでございます」
と店員はその端正な目を暖炉へと向けた。




暖炉の中で燃えている薪木。
あれは俺の中に燻っている焚き火なのだろうか?




「ええ。同じことです。監督も、そしてファンも、今年の貴方には期待しております。」
「ファン・・・?」
「えぇ。私もファンなんですけど・・・ね。」
と照れくさそうに店員は額の汗をエプロンで拭いた。
エプロンの裏からはジャビ君が出てきた。
ジャビを表に見せずに、裏側に隠す。
間違いない。
彼は江戸っ子魂を持っている。
間違いない。
彼は、生まれてこの方、ジャイアンツ・愛だ。



「今年は勝負の年です。それを監督は貴方に分かっていただきたかった。貴方はまだ若い。オープン戦での投球をありがたく、そして丁寧に投げてほしい。そんな監督の胸に秘めた想いが上手く表現できなかったのでしょうね。だからベンチ裏で手や足が出てしまったのでしょう。が、それも全て」
「全て・・・?」
「期待の現われです!!貴方への!!今後を担う、エースへの!!」
「エース・・・」
「えぇ!ジャ○アンツは大型補強などで騒がれながらも、最終的には生まれながらの巨○軍でチームを構成するチームです!」
カリスマの目は燃えている。





「KOKUBO?KUDO?KOSAKA?関係ありません。彼らは3K.KANKEIナイ選手です。ドラフトから成長し、ジャイアン○への恩を返す。そう、まるでエースUEHARAやキャッチャーAVEのようにっ!それがジャイアン○愛なのですっ!」
「そうだよなぁ・・・」
「私も実は・・・」
「うん?」
「昔はジャイアン○に入団するために頑張ったものです。が、実力がなかったのでしょう。志半ばに今ではこのような店を経営しています。そのような男も応援する球団。それが夢の球団ことYOMIURIジャイアン○なのです!」
「そ、そうか・・・」
「さぁ、お客様!!いや、未来のエース!頑張ってください!!」
「お、おう!!」
俺はコニャックを飲み干した。
カッ!!
咽が熱を帯びる。
と共に、俺の胸の中も燃えあがった。
そして暖炉の火もグワっと燃え上がった。
「さ、お客様。明日に影響しますよ」
と物静かにカリスマは語った。
「ありがとう。いくらだい?」
「いえ、お客様。ここは店からのオゴリとさせてください。」
「それじゃ悪いよ」
「いえ。イチファンとして、出させてください。」
「そうかい?」
「えぇ。もしよろしければ」
「うん?サインか?」
「いえ。今年優勝したあかつきには、是非皆様でお越しください」
「あぁ。盛大に飲ませてもらうよ」
「お待ちしております!」




マスターは俺を入り口へと送ってくれた。


「ホーホーホー」
フクロウの声が胸にしみる。
「またのお越しをお待ち申し上げております」
「あぁ」
俺は「Barカリスマ」を後にした。



「・・・またのお越しをお待ち申し上げております?」
どこかおかしいだろ、その日本語。
具体的にどこがおかしいのか分からなかったが、俺はマスターに指摘するために振り返ってみた。
が、しかし。
先ほどまでその場所にあったBar「カリスマ」の姿はなかった。













Bar「カリスマ」。
それは夜の街に現れ、困っている人を助ける(?)都会のオアシス。
そんな蜃気楼がまた現れることを信じて、


一時閉幕。。。