歌うコックさん

「バイトでもするか・・・」
若かれしカリスマはそっと呟いた。
それでは久しぶりの思ひ出系「歌うコックさん」、いざ開幕。。。












性癖1999年の4月。当時大学4年生になったばかりのカリスマは、リクルートスーツに別れを告げた。大学の取り巻きどもの誰よりも早く就職活動を終え、とある会社の内定を受理した。今更学ぶことが何もない大学も卒業確定リーチだ。ブッチャケタ話、マーヒーの法則だった。
「その類稀なる能力を世のために使いたい」と考えた筆者は、働くことにした。そう、新たなバイトだ。
バスローブ姿の筆者は実家のソファーにふんぞり返り、片手にはペルシャ猫、もう片手にはドンペリニョンで社会からのオファーを待つ。













・・・オファーが、来ない。









冷静に判断すると、各企業は「筆者はまだ就職活動中」と思っているのであろう。そのため筆者というカリスマを雇いたくても雇えない、断られるくらいならオファーをしない、というモテナイ野朗のダウンスパイラルなマインドセットに落ちているのであろう。











そこで筆者は、自分からバイト先を探すため、まずはそのアピールポイントを自己分析することにした。









圧倒的なカリスマな笑顔と白い歯。
戦略的思考能力。
ロジカルなマインドセット
料理のテクニック。









数多いアピールポイントを厳選すると上記のようなものだ。
これらを最大活用できるバイトを絞っていった。








アホな企業のコンサル・・・?能力が120%使われること間違いない。が何も学ぶことのない職業に興味はない。






ウニャウニャと考えながら、昔のバイト先にテトリスでもするために向かった。
とそこへ。











「モ○バーガー都立大○駅前店。新装開店。第一期バイト生大募集!」
と駅前とは思えない距離の立地に○スバーガーを立てている場所にポスターが出ていた。
「ふむ・・・」
筆者はアゴをなでた。












就職活動を機に潰したピアス。
社会人になるために消したタトゥ。
リーマンになるために剃ったアゴヒゲ。










今の俺はパンピーな外見だ。今なら成れる。パンピーのバイト人生の登龍門こと、ハンバーガーショップの店員に。
しかも、筆者の心を鷲掴む「第一期生」の文字。











「第一期生・・・。」
どんなグループでもレジェンドを残すこの言葉。
国生サユリ(オニャンコ)
阿部ナツミ(モームス)
CIMAやマグナムTOKYO(トウリュウモン)








歴史に名を刻む奴らは全て第一期生だ。
その後に出てくるスターも「第一期生があったから今のxxがいるんだよね・・・」と蔑まされてしまう。
それだけ恐ろしいパワーを持つ言葉。それが第一期生。










「やるよ、俺、第一期生になるよ!!」
今は亡き父ちゃんと固く誓い合ったその志を思い出し、筆者はテトリスの誘惑にも負けず、モスバーガ○の扉を開けた。
案の上、ウジャウジャいた。
















現役の女子高生がウジャウジャいた。














そして・・・。
筆者は、モ○バーガー都立大○駅前店の第一期生バイトとなった。













第1期生のメンバー紹介をしよう。
男性は4名ポッキリ。店長(23、ゲス)、男1(19、ヒョロヒョロ)、男2(20、深夜チーム)、筆者(23、イケ面のカリスマ)。





女子高生8名程度。深海魚から美女まで豊富なバリエーション。女子大生4名。地底人から美系まで何でもゴンザレスだ。熟女5名(おばちゃんばっか)。











そう、モ○バーガーとは、「おばちゃんも働かせるスゴイファーストフード」なのだ。
普通、ファーストフードの店員といえば、ションベンくさい10代で構成されていて、20代の女性店員なんぞは、オバチャン・お局さん扱いを食らうのが普通。30代以上なんて人権すらナイ。








そこをどう見積もっても40代以上の方々がいるのだ。ヘタすりゃ、グラマ(グランドマザー)の年代のオバ(ア)チャンまで制服(注:モスの制服はマニアにはタマラナイ)を着ているのだ。別の意味でタマッタもんじゃない。










まぁ要するに、人材のダイバーシティに富んでいるのだ。むしろ飛んでいるといっても過言ではない。









そして、盛りのついたメス犬のごとく、ションベンくさい女子高生や現役女子大生は恋愛モードに突入する。もちろん、お目当ては筆者だ。そうに違いナイ。うん、まちがいない。










さて、このイケテイナイメンバー構成で立ち上がった「モ○バーガー都立大○駅前店」。3勤交代制度を採用している。


朝チーム:オープンから夕方まで。多分、オバチャンと店長で回すのであろう。
夕方チーム:夕方から夜まで。ションベンくさい女子高生と現役女子大生などで溢れかえるのであろう。
夜チーム:夜から終業まで。むさ苦しい男どもと一部の現役女子高生で構成されるチームであろう。









新店開店ということもアリ、店長は13-4時間の労働を週7日間こなしている。労働ナンチャラ法などあってナイ様なもんだ。忙しい時間に店頭に来る。その後、一日の売上げを集計し、モスの油のオイニーがするロッカー室(2階)で就寝する。
「ゆくゆくはバイト生が育ったら、長期休暇を取りたいんだよねぇ」
と遠い目で筆者に語る店長の表情には死相が浮かんでいた。ブッチャケタ話、こんな大人にはなりたくない。










さて、店内の役割を説明しよう。






仕込み:材料をガンガン仕込む役目。肉体労働でもある。
コック:モスの顔とも言うべき、オープンキッチンで肉を焼き、パンにはさむ職業。
レジ兼フロア:例の「いらっしゃませ。xxx円になります」という人だ。






これ以上書いてしまうと、同業他社のアレになってしまうし、モスからアレされそうなので、簡略するとこんなもんだ。



筆者の能力を考えると、パワー溢れるので仕込みもOK.料理が得意なのでコックもOK.外見からレジもOK.

店長は筆者を任命した。













「筆者君、レジ兼フロアで」










(ありえない・・・)
まず、仕込みはありえない。仕込みは店頭には出せないようなゲテモノにはピッタリの役職だ。
外見的に言えば、レジもアリだろう。笑顔が爽やかサワデーだし。









が、しかし。
大学の取り巻きや下僕という名の下級生どもが住んでいるこの駅で、
「モスバー○ーのアホなコスチュームを身にまとい、注文を取れ」というのか?
「下僕どもに敬語を使え」というのか?









「え・・・」
「嫌?」
「はい。コックがやりたいです」
「コック?女性がこんなにいるのに?」
「店長、それは偏見です。まず、女性=料理が得意に違いない、という固定概念は間違っています。次に、やりたいと言っている職業に人材をあてがう。これがヒューマン・マネジメントの基本です。そして最後に・・・」
「わ、わかった。わかった。やる気重視ね。分かったよ」
と筆者の横文字の羅列に騙される店長。どうやらオツムは良くないらしい。










ここに、「筆者コック長」が誕生した(勝手に長になっている)。








ちなみにモスのコックとは、
(1)オープンキッチンのため、客である女子高生から注目の的(に違いない)、
(2)店員らに指示を出すことが多い(店内オペレーションはコックが握る)
(3)お腹が空いたら(隠れて)食べることが出来る
(4)暇なときは、(勝手に)オリジナルメニューの開発ができる







ちなみに上記の(4)は筆者が勝手に想定したものである。レジ係は暇なとき、フロアの掃除をしなければナラナイので、暇なときはナイ。仕込みはマイペースに仕事をこなすが、暇になったら店内を手伝わなければいけない。コックは厨房を外してはならないので、暇でも厨房だ。要するに、コックが一番楽しいのだ。









しかも。
コックは暇なとき(暇でなくても良いのだが)歌ってれば良いのだ。
新メニューを(勝手に)開発し、歌でも歌ってれば暇つぶしができる。
しかも換気扇の下なので、(隠れて)タバコでも吸ってればいいのだ。
さらに暇ならば、星空の下で女子高生のビーチクも吸っててもいいのだ。










恵まれた人材には恵まれた職場が。
人間社会という自然環境のルールが適用された。









間違いない。
これにて女子高生のアレをガンガン破ることが出来る。
もとより、「チェリーピッカー」、「バー○ンハンター」として知られている筆者はモス○―ガー1期生として、店内オペレーションの要である「歌うコックさん」として任命された。
後は、暇なときを見つけて女子高生だの女子大生だのを床の間で料理してやれば良いのだ。













「モ○バーガー1つ入りマース(ハート)」
「ハイヨ、モス入りまーす・・・はい、できたよー」
「ハーイ(ハート)」
(ピピピピピ)
「筆者君、女子高生ちゃん、時間だよ。お疲れさん」
「あ、店長、お疲れさんっス」
「お疲れ様でしたー」
(2階更衣室にて)
「アー疲れた」
「お疲れ様でしたー(はーと)」
「先、着替えて良いよ」
「え、良いんですか?」
「あぁ。俺、この後予定ないし」
「じゃぁお先失礼しマース。見ないでくださいよ(ハート)」
「何言ってんだよ」
(シュッ)←着崩れ音
(シュボっ)←ライターの音
(ガチャっ)←更衣室のドアの音
「お先失礼しましたー(とセーラー服に)」
「あぁ。じゃ、お疲れさん(ガチャリ)←更衣室のドアの音」
「ラービューインザデー♪←筆者の歌」
(ガチャっ)←更衣室のドアの音
「うおっ、ビックリした。まだいたんだ」
「筆者さん、さっきも歌ってましたよね、その歌」
「さっきって?」
「作ってるとき」
「あ、聞こえてた?」
「えぇ。筆者さん、この後予定ないんですよね?」
「あぁ」
「もし良かったら、カラオケでも行きません?新○子の(←ラブホが多い駅)」
「新○子?」
「えぇ。私の地元なんです(ハート)」
「あ、そうなんだ・・・。じゃ、いこっか」
(ガチャリ←ドアの音)
「お疲れさまでーす」
「おぅ、男1!お前、遅刻ジャネェか!?」
「マジっすか?」
「ダラダラしてんじゃねぇよ!!いいか、バイトとは言え、仕事だろーが!!早く着替えて、下で謝って来い!」
「ハ、ハイっ!」
(カンカンカン←階段を下り、駅に向かう音)
「(筆者の背中から)・・・筆者さんって何か厳しいですよね」
「あ、ワリィ」
「ううん、違うの。普段優しいのに、悪いことをした人を厳しく教えてて。何か、憧れちゃうな、そういうの(はーと)」
「何言ってんだよ(と振り返る)」
「ちゅっ」
と筆者は階段の差、振り返りざまという無防備な状態でションベンくさい高校生に唇を奪われる。
「おい・・・」
「ゴメンなさい。でも、気持ちが抑えられなくって」
「ったく・・・」
「ファーストキスだったの・・・」
「えっ・・・」
「私のファーストキス・・・」
「そうか・・・」
バー○ンハンター魂が燃え滾る中、二人は新○子へと向かっていく。











という流れになるはずだった。
が、しかし。











「筆者君、希望の時間帯ってある?」
「そーっすね。まぁ卒業確定リーチだし、いつでもイイッスヨ。ただ」
「ただ?」
「深夜はNGっすね(他のバイトをしているし、むさ苦しい男どもと一緒は嫌だ)」
「OK.深夜はダメね。・・・じゃぁ次回の研修で今月のタイムスケジュールのたたき台を出しておくから、NGの日はその時に調整するってことでどう?」
「あぁ、イイッスよ。今のうちにNGを伝えておきます。xx日とxx日と・・・」
と店長に希望を告げた。













時は明け、次回の研修日。
筆者の名前は当然コック欄に書いてあった。















朝チームの。
朝ちーむの。
ティームの(←歯と歯で唇を噛んだ音)




オバチャンたちと一緒に。
女子高生はおろか、現役女子大生もいない時間枠に。
女子大生はおろか、同年代がいない時間枠に。
筆者のチェリーピッカーの旅は終わった。。。














その後、コックさんは歌った。
楽しくて歌ったのか、オバチャンたちから話しかけられるのを拒否するために歌ったのか。
それは神のみぞ知る物語。
そんな甘くも切なく、ホロ苦い思ひ出を尻目に

一時閉幕。。。