秘密の授業

「シュッ♪」
40名の生徒がいたクラスのカーテンは閉められた。
男子生徒20名は追い出され、女子生徒20名が残された。
マルコメ・ヘアーの男子は「少し早い下校時間」の訪れに、しゃがんでもいないのに半ズボンから稲荷を丸出ししそうな勢いでウキウキしている。
が、しかし。
将来、圧倒的なカリスマになるに違いない、そんな雰囲気を漂わせる、一人のイケ面少年が口を開いた。
「作戦実行だ」
プチ・カリスマの言葉に反応するリーゼントくずれのヘアースタイルの取り巻き。
プチ・カリスマとリーゼントが目を合わせた瞬間、
思ひ出系「秘密の授業」、いざ開幕。。。









性癖1987年。
空は晴天。心地よい5月の風がソヨソヨする中、マルコメ・ヘアーな少年たちは年がら年中、半ズボン姿で小学校でドロケイ(泥棒と刑事と言う名の鬼ごっこの進化バージョンな遊び)」に勤しんでいる。数名の女子は「ドロケイ」に参加しているが、筆者という名の獣に捕まったことがある少女たちは「ドロケイ」を卒業し、6年2組の教室内で筆者と彼の取り巻きどもと会話を楽しんでいる。








なぜ彼女たちは「ドロケイ」を卒業してしまったのであろう?
説明しよう。







「ドロケイ」とは10名以上が同時に楽しめるオニゴッコの進化系ゲームだ。まず、参加者は泥棒チームと刑事チームに別れる。そして制限時間内、泥棒チームは刑事チームから逃げまくる。刑事チームは泥棒チームを追いかけまくる。捕まった泥棒は「牢屋」に入れられる。ちなみに牢屋はほぼ100%、自分が所属しているクラスルームが使われる。牢屋(=教室)の扉は閉じられている。捕まっていない泥棒が牢屋のドア(=教室のドア)を開けると、捕まったドジな泥棒は脱獄できる。
制限時間が経過し(=昼休みなど)、決められた泥棒の数(例:半数の泥棒)が残っていれば泥棒チームの勝ち、泥棒全員逮捕あるいは決められた泥棒の数の逮捕ならば刑事チームの勝ち、というシュールな遊びである。





泥棒をした時点からストーリーは始まっている点や脱獄システム、泥棒の数が少なくなれば、刑事の数が牢屋前に増える、という現実的なところが、ドロケイがオニゴッコの進化系ゲームといわれる由縁だ。







筆者はいつも刑事長だ。刑事は正義だ。正義は必ず勝つ。正義は悪を認めない。







特に少女が悪さをすることは何においても正さなければならない。
よって、筆者は「非行少女を捕まえる正義の刑事」となる。
言うならば「少年課」の部長刑事だ。
ブッチャケタ話、マルコメな泥棒など素無視だ。少女しか捕まえない。






筆者は足が速い。まるでチーターのごとく早い。その姿、さながらRSI(ロケット・スタート・良い感じ)だ。そんなわけで、ションベンクサイ少女たちは筆者に捕まる。
が、しかし。
筆者は止まれない。あまりにも早いため、彼女たちを押し倒してしまう。
刑事に捕まる泥棒。
それだけでもドキドキしてるのに、憧れの筆者に押し倒されてしまう少女たち。





筆者は追う。
非行少女を正すため、少女を追う。
あと少しだ。あと少しで彼女を捕まえられる。
捕まえた!と思った矢先、
(ドシーン!!)
筆者は不良少女こと泥棒役の女生徒を押し倒してしまった。
「あ・・・筆者君」
「ごめん、大丈夫だった?(白い歯キラーン)」
「ううん。大丈夫・・・」
(見つめあう二人)
「いいよ・・・(と目を閉じる)」





という流れになってしまう。
そして少女のスポーツブラみたいな布当てが外され、パンティエがあっという間に脱がされ、少女は一番大事なものを筆者に捧げてしまう。こんなところから、筆者のバー○ン・ハンターなDNAは育ったに違いない。





少年課の部長刑事が少女の心を盗んでしまうのだ。
どっちが泥棒役なのか、本末転倒とはこのことだ。
が、しかし。







筆者は、心と膜を頂いた少女には興味がない。
あくまで、筆者のターゲットは「手中にしたことがない少女」たちだ。
よって、筆者の取り巻きことに捕まえた獲物を放り投げる。
ジャッカルどもは、胸がドキドキしている少女を食い散らかすのだ。
筆者の「食っては捨てるフェードアウェイ」なDNA,そして筆者の取り巻きどもの「ファンタジスタ」なDNAはこのような経験から育ったに違いない。




と言ったわけで、少女たちはドロケイから卒業してしまうのだ。被膜という名の傷と共に。そして全ての少女たちを食い尽くした筆者は、ドロケイをやらずに、暇つぶしのために少女たちと話しているのである。






そんな彼女たちが、今度は「少女」を卒業する日が訪れた。
そう、それは女生徒たちだけが教室に残される「秘密の授業」の開催だ。
この「秘密の授業」の開催に向け、あるプロジェクトが立ち上がった!
コードネームは「女子だけの授業を受けてみる」。
始まりはこうだった。







キンコンカンコーン。
どことなくノスタルジックなチャイムの音がなり、授業が終わった。
今から思えば意味のない「ホーム・ルーム」という時間が始まった。
何も学ぶことがない先生と呼ばれるオバハンが戯言をほざき始める。
彼女は言った。
「はい、聞いてー!!(注:ホーム・ルーム中のガキはウルサイのが相場だ)明日は、男子はホーム・ルームが終わったら帰って良いわよー!!女子は残りなさーい!!女子だけの授業があるからねー!!分かった?ちゃんとオウチの人に言うのよ!」
「はいっ!質問です!」
「・・・何?筆者君?」
「なぜ明日の授業は女子だけなのですが?私たちは私立に通っている。私の予想では、男女かかわらず、同じ学費を学校に納めている!なのに女子の方が学ぶ機会が多い!明らかに差別だ!!これは性差別だ!!!その女生徒だけの特別授業の学費を私たちに返して欲しい!でなければ、私たちを平等に扱って欲しい!さもなくば・・・。文部省に訴えてやる!」




(筆者とアホな先生の間に緊迫した空気が流れる。さながら、お上から言われたことを忠実に話しただけのオバハン教師とカリスマ雰囲気をまとうプチ・カリスマのディベート大会である。勝敗は目に見えている。と、そこへ)






「(場が読めないアホな生徒が)きりーつ、礼!先生さようなら!」
「はーい。それじゃ気をつけて帰るのよ〜」








「なぁ、筆者(様)、さっきの何だ?」
リーゼントくずれなヘアースタイルの筆者の取り巻きことスネオが話しかけてきた。
「いや、スタンダップコメディだよ」
スタンダップコメディ?ああ、あれか」
とスネオは絶妙なスパイスの効いた筆者の返答を素無視した。
(君とは絶好だ・・・)
21世紀少年の「ともだち」のようなことを思いながら、筆者は帰路へと旅たった。








あくる日。
「ねぇ筆者(様)。放課後の『女子だけの授業』って気にならない?」
取り巻き2ことノビタが筆者に聞いてきた。
「ああ。気になるね。男女の平等性の観点から非常に気になるね」
「スネオがさ、姉チャンに聞いたんだって。そしたら『そういうことは女の子に聞いちゃダメよ』って言われたんだってさ。ねっ、スネオ?」
「あぁ!・・・なぁ、筆者(様)。…その授業、受けられないかな?」
スネオがいつものイヤラシイ笑顔で面白いことをほざいた。
筆者は口を開いた。
「ほぉ。面白いアイデアだ…。よしっ、やるか!!」






ここにコードネーム「女子だけの授業を受けてみる」プロジェクトが立ち上がった!!
改めてチームメンバーを紹介しよう。





海よりも深い考察力を武器にする筆者。圧倒的なカリスマで仲間をまとめあげるリーダーシップと戦略的思考能力、そして誰にも負けない勇気とカリスマ・コミュニケーション能力をかねそろえる少年。若干ウェーブがかかったヘアースタイルがチャーミーグリーンだ。





空よりも高い志でプロジェクトのアイデアを出したエロ少年のスネオ。ドラえもんの登場キャラのスネオ的存在で筆者の後ろにチョロチョロくっついて来る「トラの衣を借る少年」。もちろん、リーゼントくずれのスネオ・ヘアー。






世界を股にかけるパシリことノビタ。思考能力はゼロに等しく、筆者の考えをスネオに解説してもらい、実現する兵隊的存在。もちろん、マルコメ・ヘアー。







「いいか。作戦はこうだ」
筆者はスネオとノビタを校庭に呼び出し、地面に絵を書きながら説明する。
「この四角を我らが6年2組の教室とする。教壇はココ。ドアがココだ。ドアとドアの間には、壁がある。が、壁の上下には小窓があるよな?そして、反対側は窓。外はベランダだ。ここの窓は、あそこの中学の校舎、多分3年4組の教室から見ることができる。そして、教室のここに掃除道具入れのロッカーがある。分かるか?」
「あぁ。よく分かるよ!筆者(様)は絵が上手いね!」
スネオがいつものようにオベンチャラを使う。
「ほんとーだ!」
ノビタがいつものように数秒遅れて反応する。
「さて、本日突然決まったこのプロジェクトのため、俺らには録音機という武器がない。そして、スネオの姉さんの反応からして、『女子は俺らに本日の授業の内容を教えない』。よって・・・」
「よって・・・?」










「ここはリスク・ヘッジングを行う。まず、一人が授業の内容を見ることと聞くことに挑戦する。コイツの配置はココだ!」
筆者は壁の小窓を指差した。
「ホーム・ルームが終わるまでに、いくつかの小窓を選択し、鍵を開けておく。そして、その小窓から授業を受けるのだ!!」
「なるほど・・・」
「が、しかし。小窓から授業を聞くこと、これはつまり、廊下に寝そべらなければナラナイ!!誰かが通りかかれば、職員室に呼び出されること間違いなしだ!!リスクが高い!!」
「ふぅぅぅむ。」
「そこで、リスクヘッジだ!」
「と言うと?」











「授業とは(あ)授業を見る、(い)授業を聞く、(う)授業に参加する、という3つで成り立っている。今回、参加することは難しい。が、しかし」
「うんうん」
「(あ)と(い)、つまり、見ること、そして聞くことを分担し、後で足し合わせれば良いのだ!!」
「おおぉぉぉ」
「よって、役割1:小窓から授業を盗み見て盗み聞くというリスクが一番高い役割。役割2:中学の校舎の3年4組から授業を盗み見る役割、そして役割3:掃除道具に忍び込み、授業を盗み聞く役割、に分担する!」
「おー!!」
「さて、ポジショニングが決まったので、役割を分担しようと思う。スネオ!」
「はいっ!!」
「お前は、目となれ!」
「目?」
「そうだ!!中学に忍び込み、わが教室を窓から盗み見ろ!」
「げっ」
「いいか、仮に筆者が中学に忍び込めば、中学生と俺らの全面戦争になってしまう。もしノビタが中学に行けば、彼は確実にPOW,つまり戦争捕虜になってしまうであろう!!その点お前は完璧だ!!姉貴のネットワークを使えば、中学に忍び込むことはワケナイはず!!この役職はお前しか出来ない!!いいな、スネオ!」
「ラジャー!!」
「ホーム・ルームが終わったら、ダッシュで中学校舎に忍び込め!!」
「イエッサー!!」
「ノビタ!お前には、耳となってもらう!」
「耳?」
「そうだ!!お前は掃除道具入れに忍び込み、授業をイチから聞き取れ!!いいな、お前のリスニング能力、それこそがこの作戦の根幹だ!!」
「うんっ!」
「お前はホーム・ルームが始まる前からロッカーに忍び込む必要がある!!そしてロッカーから出るのは、授業が終わってからだ!!」
「えっ、そんなに長く・・・?」
「あぁ。そうだ。お前は体調不良を理由に、ホーム・ルームをサボることとする!安心しろ!そこは俺らが何とかカバーしてやる。そして、女子だけの秘密の授業が終わって、俺らが迎えに行くまで、ロッカーに待機だ!!できるか?」
「何とかするよ・・・」
「で、筆者(様)はどうするの?」
「私は、君たちよりもはるかにリスクが高い役割を自らの身を投げてまでもやってやる!!」
「まさか・・・」








「私は廊下に待機し、小窓から授業を盗み見、盗み聞きをしようと思う!!」
「筆者(様)・・・」
「いいか。私は、この作戦を必ず成功させる!!君たちが私を信じてくれる限り・・・」
「筆者―――!!(様)」
スネオとノビタは筆者に抱きつき、涙を流した。
「諸君!!武運を祈る!!」
「おぉぉぉぉぉ!!」








キンコンカンコーン。
どことなくノスタルジックなチャイムの音がなり、授業が終わった。
「はーい。じゃぁ皆、昨日言ったとおり、男子はこれでおしまい。女子は残るのよー」
「はーい。」
「・・・あれ?ノビタ君は?」
「お腹痛いって昼休みに言ってたんで、さっき保健室に連れて行きました」
「あら、筆者君、偉いのね」
「いえ、それほどでも。」
「筆者君も帰るってことで良いよね?男子全員これで帰るのよ?」
「えぇ。私もこの後の予定が詰まっていますので、願ったり適ったりです。先生、昨日は失礼しました。陳謝を申し上げます」
「陳謝・・・?」
「キリーツ、礼!先生さよーならー!!」
「はーい。さよーなら。気をつけて帰るのよー」







「作戦実行だ」
若き日のカリスマとスネオヘアーな取り巻きは目を合わせ、掃除道具入れのロッカーを軽く叩いてから廊下に出た。
「筆者(様)、行って来るよ!」
「おぅ。武運を祈る!」
ダッシュで中学の校舎に向かうスネオ。
筆者はプラプラと廊下を歩き出す。
他のクラスや我がクラスのマルコメどもが筆者を追い越していく。
廊下は筆者だけとなった。





音がしない廊下。
忍び足で我がクラスこと6年2組に忍び寄る筆者。
突然。
ガラっ。
と音が鳴り、隣のクラスのドアが開いた。
咄嗟に男子トイレに逃げ込み、廊下の気配をうかがう筆者。
(ザワザワザワ)
と複数の足音が移動する音が聞こえる。





「はーい。じゃぁ1組(隣のクラス)の女子は2組(我がクラス)に入ってー!!」
どうやら2つのクラスの女生徒を一つの教室に閉じ込めるつもりらしい。
危なかった・・・。
もし秘密の授業が1組(隣のクラス)で行われていれば、小窓大作戦は失敗するところであった・・・。






廊下の気配が無くなり、筆者は男子トイレから脱出し、忍び足で我が教室へと進む。








「開かない・・・」
そうなのだ。確かにホーム・ルーム直前に鍵を開けておいたはずの小窓の鍵が閉まっている。
(何故だ?どうしてだ??)
筆者は廊下に寝そべり、本気で小窓を開けようとした。
丁度その頃。














「ハァハァハぁ」
ダッシュで中学の校舎へと向かい、中学の校舎に侵入したスネオは息を切らせながら、3階へと向かった。
(僕らのクラスを見るには3年4組のベランダじゃないとダメだ、って筆者君が言ってたよな・・・。でも3年4組は姉ちゃんがいるし、何とか入れるだろう・・・)
3年4組の教室についたスネオは息を整え、教室のドアを開けた。
「失礼しマース!お姉ちゃんに会いにきました!!」
丁度その頃。








「シュッ♪」
カーテンが閉じる音が聞こえ、部屋の中が暗くなった。
と同時に掃除道具入れのロッカーに差し込む光がなくなり、ノビタは更なる闇へと包まれた。
「フゥフゥフゥ」
ロッカーの中には自分の吐息の音しか聞こえない。
自分の吐息がこんなにウルサイなんて。
ノビタはなるべく音が聞こえないように、静かに呼吸を続け、教室の音に耳を傾けていた。
とそこへ。







「先生!!誰かが廊下から小窓を開けようとしています!!」
壁側に座っていた一人の女性徒が騒ぎ始め、教室が騒然とした。
「ハイハイ。毎年いるのよね」
と教壇にいた先生は急いでドアを開けた。
丁度その頃。











「君は・・・。誰だ・・・?」
「あ、いえ、その・・・」
中学校の3年4組は明らかにテスト中だった。
「スネオ!!」
姉が叫んだ。
スネオは急いで中学校から逃げ出した。
丁度その頃。













「こらーーーー!!誰だ!?覗いているのは!?」
先生が廊下に飛び出した。
が、しかし。
廊下には誰もいなかった。
教室の小窓が開かないことを理解した筆者は、誰も使っていない1組へと移動していた。
普段入らない1組の教室。
まだ手を付けていない唯一の同級生こと直子ちゃんの席が見えた。
直子ちゃんの机の中には、彼女のソプラノリコーダーがあった。
彼女のソプラノリコーダーは、音楽の時間、毎日直子ちゃんと口付けをしている。
ということは、筆者がそのソプラノリコーダーを口にすれば、間接キッスだ。
間接キッスの誘惑と戦いながら、筆者は目的地を目指した。
そこは「1組のベランダ」
構造的に、1組のベランダと2組のベランダは陸続き。
要するに、1組のベランダから2組のベランダへと行き、ベランダから授業に参加すればよい。
当初の想定では、「1組のベランダは使えないし、ベランダに隠れる場所はない=ベランダ作戦はアリエナイ」であった。
が、先ほど1組の女子が2組に移動したことを察知した。
つまり、咄嗟の機転で筆者は「ベランダ作戦」を思いついたのだ。
アリエナイ柔軟的思考力で1組のベランダへと向かう筆者。
丁度その頃。









「呼吸をしちゃダメだ。外に聞こえちゃう・・・」
教室から聞こえる授業の内容なんぞ、ソッチノケで音を立てないことに集中するノビタ。
「フゥフゥフゥ」
掃除道具入れのロッカー内はノビタの吐息と体温でサウナ状態になっている。
全身で汗をかくノビタ。
呼吸を止めることに必死なノビタ。
上の口を封じられると、下の口で呼吸がしたくなるノビタ。
(駄目だ、駄目だよ、駄目だよぉぉぉ)
ノビタの心の叫びと孤独な戦いが続いていた。
丁度その頃。








姉ちゃんに会っちゃった。
テストを邪魔しちゃった。
家に帰ったら何て言おう。
そうだ、筆者君のカリスマ・コミュニケーション能力でQ&Aを作ってもらおう。
中学からダッシュで逃げていたスネオはそんなことを考えていた。
とそこへ。
(ドシーン)
スネオは何かにぶつかった。
「いってぇ」
「おい、アンちゃん。痛いやないの」
何故か関西弁の中学生がスネオを睨んでいた。
彼は、この中学イチの不良として知られているヤンキーだ。
マズイ・・・。
「何や、兄ちゃん。謝ってくれへんの?謝り方も知らんのかいな。じゃぁ教えたろか?」
「おい、何とか言えや、コラ」
「おぅ?いてくれまうぞ、ボケ」
徐々にエスカレートしていく、ヤンキーの脅迫。
なぜ僕がこんな目に合わなけりゃいけないのか・・・?
スネオは涙目になっていった。






筆者のせいだ。
筆者が僕を中学担当にしたからだ。
筆者のバカ野郎。
スネオはイジケモードからウラミモードへと転換していった。
「コラー、お前ら何やってんだー!?」
先生と思われる男性の声が遠くから聞こえてきた。
「やべっ、てめー覚えてろよ!」
「うるせぇってんだ、バーカ」
「何やと!?」
関西弁で悪ずくヤンキーを尻目にスネオは走った。
筆者への恨みを面と向かって言うために・・・。
丁度その頃。









外は5月の風が吹き荒れていた。
筆者は1組のベランダから2組へのベランダへと移動した。
2組のベランダの前で立ちすくむ筆者。
2組の窓はカーテンで覆われていた。
(カーテンのせいで、スネオのミッションは不達成だ・・・)
筆者は、スネオの空しさを胸に、窓をそっと開けようとした。








窓が動いた。
授業の内容が聞こえてくる。
大丈夫だ、鍵はかかっていない。
筆者はソロリソロリと音を立てないように窓を開け始めた。
丁度その頃。








「あぁぁぁ、もう駄目だ・・・」
ノビタは2組の教室の中の掃除道具入れのロッカー内で悶絶していた。
外から聞こえる授業内容なんてソッチノケ。
後で筆者君やスネオに怒られるかもしれない。
そんな心配もソッチノケ。
上の口で呼吸をしないようにしていた結果、下の口が大きく呼吸したいと言い始めたからだ。
我慢の限界。
でも我慢。
今ココで屁をかましたら、①ニオイで自分が苦しむ、②ニオイで自分の存在がばれる、③音で存在がバレル。
そのリスクは高すぎる。
人間としての存在価値が無くなってしまう。
ノビタは我慢を決めた。
決心した瞬間、気持ちが楽になった。
人間、進むべき方向性が決まると、ここまで気分が楽になるのか。
悟りを開いた感がした。
と同時に、ケツ筋も緩んだ。
「ぷぅぅぅぅぅぅ」
ロッカー内で音がコダマし、あまりのニオイに悶絶したノビタは外へ飛び出した。
と同時に。






「筆者ぁぁぁ!!てめぇ、コンニャロメ!」
スネオは初めて筆者を呼び捨てした。
勇気を振り絞って呼び捨てした。
殴られたって構わない。
ケンカに負けたって構わない。
俺は勇者だ。
俺を追い込んだ悪者こと筆者には今日こそ言ってやる!!
スネオは2組の教室を開けた。
と同時に。






「びゅうぅぅぅ」
外の風が一段と激しくなった。
授業内容を聞こうと窓を開けすぎてしまったのであろう。
カーテンがブワっとめくれ、ベランダから風と光が差し込まれた。
と同時に、ベランダに立ちすくむ、一人のプチ・カリスマの姿も。







ニオイに耐えかねたノビタがロッカー前に。
怒りの表情のスネオが教室のドアに。
後光を浴び、肩で風を切りながら立ちすくむ筆者がベランダに。





教室は静寂に包まれていた後に、女生徒の叫び声がコダマした。。。







そんな甘くも切なく、ホロ苦い思ひ出を尻目に

一時閉幕。。。