DMF与田の悩み

「畜生!!何故だ?何故俺じゃなくって戸田なんだ!」

キッズ神戸スタジアムの脇にある小さなスナックの片隅で、俺(キッズ神戸のDMFこと与田)は、1人やさぐれていた。


ちなみに本日のお話し、PS2のソフト「サッカーチームを作ろう‘04」(略してサカつく)にまつわるお話しのため、その事情を知っていると面白いかもしれないが、知らない人でも何とか笑えるようにしたいが無理であった(と自己反省)。

10月28日号の「エース鬼の悩み」が大好評だったため、本日も「サカツク系」のスピンオフとして、今回はキッズ神戸のディフェンシブ・ミッドフィルダー(DMF)こと与田を主役とし、彼の悩みにスポットライトを当ててみたいと思う。

前振りが終わったところで、いざ開幕。。。



「ちょっと、ヨッちゃん、飲み過ぎちゃいますの?」
ママが声をかけてくる。
「うるさーい」
俺はママを怒鳴りつけた。


ガチャーン。パリリーン。








俺は思わずカウンターの瓶をテーブルの下に落してしまった。凄まじい音と共に、瓶が割れ、ママがカウンターから飛び出してくる。
「ヨッちゃん、大丈夫やった?」
「あ、あぁ」
「いけない!足が切れてる!!」
「えっ・・・」
ママが言うように俺の足元を見ると、血が出ている。割れた瓶で切ってしまったらしい。
「救急車を!」
とママが叫ぶ声が聞こえたが、俺の気は遠くなっていった。。。そう、俺は自分の血を見てしまうと貧血症状を起こす体質なのだ・・・。






目が覚めたら、井畑フィジカル担当コーチと高原監督が俺を覗き込んでいた。よく見た風景。。。


俺はキッズ神戸の医務室に連れて来られていたらしい。




ヨーダ!大丈夫か?」
井畑コーチと高原監督が交互に俺に向かって声をかける。焦点が定まり、耳が正常に聞こえ始める。俺は意識を取り戻したらしい。


「え、ええ。大丈夫っす。」
「井畑君、ヨーダの状態は?」
「まぁ軽い切り傷です。人体も損傷してないし。安静にしとけば、直ぐになおります。(俺に向かって)ヨーダ。酒は飲んでも、飲まれるな、だぞ」
と井畑コーチは言い、部屋を後にする。







しばらくの静寂の後、監督が口を開く。
ヨーダ。自棄酒か?」
「え、ええまぁ。何ていうか、そのぉ」
「どうした?何か嫌なことがあったのか?」
監督の優しい言葉の前に、俺の溜まりに溜まった思いが自然と口から出てきてしまう。





「監督。なぜ俺を使ってくれないんですか?」
「え・・・」
「確かに俺は屈指レベル。戸田さんに比べればレベルが下だ。でも戸田さんは31歳。この先を担うのは29歳の俺なんじゃないんですか?」
「まぁ確かにそうかもしれんなぁ」
「それに。俺の連携タイプは阿見タイプ。戸田さんの御タイプよりも使い勝手がいいじゃないですか!特に、阿見タイプ同士の連携は最高だから、チームにもう1人阿見タイプさえいれば連携の愛称がバッチリなのに・・・」
「まぁそうだな」
「じゃぁ何故俺を使ってくれないんですか!?」
ヨーダ・・・。お前の悩みは分かった。だがなぁ・・・。選手の起用から選手との契約、そして引退後の雇用に関しては、全てオーナーが権限を握っているんだ。」
「え、そ、そうなんですか?」
「あぁ。まぁ俺も監督として既に10数年、このチームを任されてきているから、あの人の考えは手に取るように分かるんだが、それをお前だけに言うのは不公平だと思っている」
「それはそうですが・・・」
「まぁ、俺のアドバイスは、何も考えずに練習を続けろ、ってことかな」


俺は決意した。直接オーナーに直訴することを。


「監督!!」
「うん?」


最初監督は猛烈に反対したが、最終的には俺がオーナーと話したがっていることをオーナーにそれとなく伝えてくれる、と約束してくれた。



そして。。。





オーナー室でよく見かける外人秘書のサラが俺を呼び出した。
ヨーダ。ちょっとオーナーがヨーガあるヨーダ
「はっ?」
「オーナーがヨーダに会いたいっていってるヨーダー」
「あぁ。なぁサラさん、クダラナイ駄洒落は辞めてくれないか」
「言葉は伝わればよろし。イケテナイ突っ込みは嫌われるね」
「・・・」




俺はオーナー室の前に立ち、大きく呼吸をしてからオーナー室に入った。
「失礼します!」
「おぉ、ヨーダ。よく来たな。まぁ座ってくれ」
ラルフのスーツに身を包んだ、英国系紳士の香りがするカリスマが俺を迎えてくれた。





ヨーダ。先日足を切ったと聞いたが、大丈夫か?」
「えぇ・・・」
カリスマの温かい声が俺の胸の鼓動を熱くする。





「オーナー。俺の起用方法に疑問があります。一体なぜ戸田さんばかりを起用するのですか?稲さん(注:オレオレ稲本。神レベルのダイナモとして約20年間チームに貢献。53年目で無事引退)が引退した後、俺と戸田さんがチームのダイナモとして活躍する機会をもらえるもんだと思っていました。でも実際は、戸田さんばかりがスタメンになっていて、俺は控えとして扱われています。理由をお聞かせください!」
「確かにね。ただ、稲本が引退した年は、君がスタメンだっただろう?」
「えぇ。その年はスタメンとして起用していただき、チームの優勝に貢献したつもりです!」
「確かに。が、翌年からは戸田が使用されるようになった」
「そうです!俺もその時にオーナーに直訴すればよかったのですが、それから2年間。一体なぜ俺を使ってくれないんですか?」
「機会があれば使おうと思っていたよ」
「でもその機会がなかった、と言うんですか?戸田さんよりも俺の方が連携レベルは高いし、当時は同じ屈指レベルだったのに」
「まぁ、そう感情的になるなよ、ヨーダ。俺の話を聞いてくれ」
「・・・ハイ」
「言葉を包み隠さず話すぞ。ヨーダは一つ、重要なことを忘れている。だからスタメンじゃないんだ」
「忘れてること・・・」
「比較したくはないが、戸田はそれを実施している。それで結果を出している。だから、スタメンなんだ」







俺の頭は走馬灯のように駆け巡る。
スカウトによって、他のチームで活躍していた俺を引き抜いてくれたオーナー。当時、オーナーが言ったことは・・・。







「分かったみたいだね?」
「・・・ハイ。スミマセンでした。俺、自分が恥ずかしいです」
「何も恥じることはナイ。思い出して実施すること、それこそが・・・」
「・・・いつでも成長・いつでも反省」
「そうだ」
「確かに、戸田さんはチームのスローガンを実施していた。だから俺がスタメンで戸田さんがベンチだった3年前、戸田さんは神レベルになった。俺が屈指で留まっているにも関わらず・・・」
「あぁ」
「オ、オーナー。俺、ちょっと失礼してもいいですか?」
「どこに行くんだい?」
「もちろん、フィールドです!!」






俺はオーナー室を飛び出し、フィールドへとダッシュした。
自分が成長できる場所。自分を反省させてくれる場所。それはオーナー室じゃない。


フィールドだ!!


そこは夢や希望、現実と挫折が詰まっている場所。
オーナーは俺に優しく、それとなく気づかせてくれた。
ありがとう、オーナー。やっぱり貴方はカリスマだ・・・。


フィールドに着いた俺は早速ボールを蹴り出した。
軽く蹴ったつもりだが、ボールは勢い良く飛んでいった。
体にキレがある証拠。心の膿を取り除けたことで、キレが生まれたらしい。
先日切った足の具合も良さそうだ・・・。




一時閉幕。。。